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百貨店業界に迫る“4つの壁”

百貨店業界に迫る“4つの壁” 乗り越える最適解を提供

雑誌『ストアーズレポート』2019年1月号記事
※当記事は、株式会社ストアーズ社の許諾を得て転載しています。
掲載日:2018年12月28日

優勝劣敗を決定付けるターニングポイントだ。2019年、百貨店業界は“4つの壁”を乗り越えなければならない。それぞれ「改元」、「祝日の変更」、「消費増税」、「改正割賦販売法」で、百貨店業界の各社にはシステムの改修が求められる。怠れば、業務や決済などでトラブルが多発し、客や従業員の混乱を招く。最悪、決済でクレジットカードが使えなくなる可能性もある。多くの百貨店のシステムを手掛けるアイティフォーの望月忍流通・eコマースシステム事業部シニアスペシャリストは「空前絶後の難局」と警鐘を鳴らす。しかし、各社の腰は重い。全社的に難局の到来を認識できないからだ。望月氏は「改正割賦販売法では20年3月までにクレジットカードの磁気カードからICチップへの切り替え、情報の非保持化を完了させなければならないが、このままではシステムの改修が間に合わない“難民”が発生する」と危機感を募らせる。タイムリミットが刻一刻と迫る中、18年9月にはアイティフォーの取引先の地方百貨店が改正割賦販売法に対応した決済システムiRITSpay(アイリッツペイ)」を稼働。また、大手百貨店も採用を決めた模様だ。“駆け込み寺”として、アイティフォーが存在感を強めてきた。

ストアーズレポート2019年1月号

改元、祝日の変更、消費増税、改正割賦販売法―いずれも、システムの改修が欠かせない。来年の5月1日に予定される改元は30年ぶりだが、実は多くのベンダーが対応に悩まされるという。アイティフォーは「元号での表記も欠かせない生年月日を除くと全て西暦。当社は『2000年問題』の際も、先行して年月日を8桁で処理しており、トラブルは皆無だった」(望月氏)。改元に関連して祝日や休日も例年と異なり、ひいては金融機関の定休日も変わる。それを事前にシステムで修正しておかなければ、買掛金や売掛金の処理などで問題が起きやすい。だが、アイティフォーのシステムは「すでに『春分の日』や『秋分の日』のズレを踏まえて設計しており、来年の4月27日~5月6日の10連休、『即位礼正殿の儀』が行われる10月22日の祝日も、適正に反映される」(望月氏)。

来年の10月1日に控える消費増税では、軽減税率がシステムのネックとなる。飲食料品などの消費税率は8%に据え置かれ、飲食料品でも店内で食べると10%、持ち帰りは8%と煩雑だ。一部では、システムの改修費は数千万円にのぼるとされる。だが、アイティフォーには先見の明があった。政府が2014年に消費税率を5%から8%に引き上げると発表した時点で、物品税(特定の物品を対象とする課税)の再導入を想定。インボイス方式への対応やレシートの印字項目など、一部の改修だけで複数の税率も困らない。

低コスト、短期間で必要なシステムを

18年6月1日に施行された改正割賦販売法、同法を補完する形で20年3月までの準拠が義務付けられた世界的なクレジットカードのセキュリティの基準「PCI DSS」も、システムの改修を要する。
割賦販売法が改正された背景には、クレジットカードの番号の漏洩や不正使用の増加がある。一般社団法人日本クレジット協会の調査によれば、クレジットカードの不正使用額は11年が78億1000万円、12年が68億1000万円、13年が78億6000万円、14年が114億5000万円、15年が120億9000万円、16年が142億円(いずれも推定、海外発行カード分は含まれない)と拡大。19年のラグビーワールドカップ、20年の東京オリンピック・パラリンピックを見据え、インバウンドを最大化する上で、クレジットカードを取り扱う加盟店の管理の強化、クレジットカードの不正使用の防止の義務付けなどは急務だった。
改正割賦販売法の主な目的は「加盟店管理の強化」、「クレジットカード情報の適切な管理等」、「フィンテックの更なる参入を見据えた環境整備」。加盟店に対し、クレジットカードの番号などの取り扱いを認める契約を締結する事業者(加盟店契約会社など)についての登録制度を設けるほか、クレジットカードの番号などの情報の適切な管理や不正使用対策を義務付け、フィンテック企業ら決済代行業者に加盟店契約会社と同一の登録を受けられる制度を導入した。

システム対応ロードマップ

PCI DSSは、アメリカン・エキスプレス、ディスカバー、ジェーシービー、マスターカード、ビザの5社が共同で策定。「安全なネットワークとシステムの構築と維持」、「カード会員データの保護」、「脆弱性管理プログラムの整備」、「強力なアクセス制御手法の導入」、「ネットワークの定期的な監視およびテスト」、「情報セキュリティポリシーの整備」という6つの目標で構成され、達成するために「カード会員データを保護するために、ファイアウォールをインストールして維持する」や「保存されるカード会員データを保護する」といった12の要件を盛り込んだ。
日本では、クレジットカード事業者やその加盟店、経済産業省らで組織する「クレジット取引セキュリティ対策協議会」が、PCI DSSの準拠を推し進めてきた。実行計画によれば、インターネット通販サイトを運営する加盟店は18年までに多面的・重層的な不正使用対策を導入し、カード事業者や加盟店は20年3月までにカード情報の非保持化やPCI DSSの準拠、カードの磁気からICチップへの切り替えを完了させる。
同協議会には三越伊勢丹ホールディングスやJ・フロントリテイリング、日本百貨店協会も名を連ねており、PCI DSSの遂行は“マスト”だ。
ところが、百貨店業界の反応は鈍い。大手の一部は動き出したが、中小規模の百貨店は静観を続ける。原因の1つはコストだ。近年はソフトウェアが高騰。望月氏によれば、売上高が1兆円の企業でソフトウェアの更新に1億円ほどかかる場合、100億円の企業では5000万円という。コストが正比例で減るわけでなく、小さい企業のほうが、より負担が重い。慎重を期すのは当然だ。
ただ、手を拱いていれば、期限の20年3月に間に合わず、要らぬトラブルが起きかねない。クレジットカードでの決済が不可能になる、クレジットカード事業者から手数料の引き上げを突き付けられる、そうした危険性も孕(はら)む。百貨店業界では、クレジットカードによる売上げが2割~4割に達する。クレジットカードが使えない、手数料が上がるという事態に陥れば、売上げや利益の急激な減少は避けられない。

iRITSpay決済ターミナル

iRITSpay決済ターミナル

もちろん、アイティフォーの取引先には、いち早く態勢を整えた百貨店もある。18年9月に、アイティフォーが展開するiRITSpayと決済端末「iRITSpay決済ターミナル」が稼働。決済端末は2フロア・4台でスタートし、19年3月までに全館で100台へ増やす。
iRITSpayは、決済情報と売上げ情報を分けて管理。最小限の投資でPCI DSSに準拠する。「決済端末からiRITSpayへ直接決済情報を送信し、既存のPOS端末には決済結果情報(カード会社と金額)のみを届ける『外回り方式』を採用したため、既存のシステムの改修が最小限で済む」(望月氏)という。価格は月額18万円~。
決済端末には、ICカードリーダーやバーコード・QRコードリーダー、磁気カードリーダー、非接触NFCリーダー、PINパッド、レシートプリンターを搭載。クレジットカードから電子マネー、銀聯カードまで、国内外の決済手段を網羅する。タッチパネルを採用しており、操作も簡単だ。価格は1台あたり6万円。
バッテリーを搭載した機種は持ち運べるため、いわゆる「面前決済」も可能。百貨店や飲食店などの多くは店員がカードを預かり、バックヤードで決済するが、いわゆる「スキミング」を防ぐ上で、経済産業省は面前決済を求めている。
トータルでのコストは、数百万円ほど。カードの情報がPOS端末を経由する「内回り方式」の10分の1だ。文字通り“破格”だが、望月氏は「1つのシステムを売って儲けるのでなく、継続して使ってもらいたい。『アイティフォーのシステムを使って良かった』と思ってもらえれば、取引は永久化し、利益も後から付いてくる」と狙いを明かす。

システムや経理の担当者のサポーターになりたい

百貨店業界に待つ“4つの壁”は、越えても利益を生まない。データの“見える化”を促したり、CRMの精度を上げたりする“攻めのシステム投資”とは一線を画す。それだけに、着手の遅れが目立つ。望月氏は「崖から落ちる直前どころか、落ちてから気付く百貨店もあるのではないか」と危惧する。「19年内なら、まだ間に合う。当社は半年あれば、必要なシステムを完成させられる。システムや経理の担当者のサポーターになりたい」という望月氏の“エール”は、同時に“最後通牒”でもある。それを無視してはならない。